抵当権
抵当権の基本
抵当権とは
借金のカタ
抵当権の概要
銀行AがBに融資する場合、Bの土地の抵当権の設定を受けると、Bが返済できなかった場合、銀行Aは抵当権を実行し、土地を裁判所で競売にかけることができ、競落人が支払う金から銀行Aは優先的に弁済を受けることができる
被担保債権とは
抵当権のおかげで回収が確実な債権
抵当権設定者、抵当権者
・抵当権設定者(本人):融資を受けるため土地に抵当権を設定した
・抵当権者(銀行):融資した
↓
・抵当権設定者(本人):融資を返済できなくなった
・抵当権者(銀行):抵当権を実行し、土地を裁判所で競売にかける
・競落人:土地を競落
↓
・抵当権者(銀行):第三者の支払いから優先的に融資分を回収
◇競落人(けいらくにん)とは
競落(けいらく)によって目的物の権利を取得した人
物上保証人
抵当権設定者は債務者以外の者でもいい
他人の債務のために抵当権を設定した者を「物上保証人」という
・本人:融資を受けた
・抵当権設定者(物上保証人):本人のために自分の土地に抵当権を設定した
・抵当権者(銀行):本人に融資した
物上保証人は、被担保債権の消滅時効を援用できる
◇誰が物上保証人なんかになるの?
親とか
抵当権の目的物
・不動産
・地上権
・永小作権
目的物の使用収益
抵当権が設定された後も、抵当権設定者が目的物を使用できる
考え方
住宅ローンを組んだら、銀行の抵当権がマイホームに設定されるが、マイホームに住み続けることができる
付従性
・被担保債権が譲渡されると、抵当権も譲渡されたことになる
・被担保債権が消滅すると、抵当権も消滅する
目的物の売却
目的物の売却
抵当権設定者は目的物を自由に売却できる
抵当権の登記がされていれば、抵当権者は、抵当権を第三者取得者に対抗できる
・抵当権設定者(債務者):目的物を売却
・第三取得者:目的物を購入
↓
・抵当権設定者(債務者):債務はまだある
・抵当権者(銀行):抵当権を第三者取得者に対抗できる
・第三取得者:目的物(抵当権付き)を所有
抵当権消滅請求
請求できる者
・抵当不動産の第三取得者
→債務者(抵当権設定者)や保証人は請求できない
請求できるとき
・競売の差し押さえの効力が発生する前
抵当権の効力が及ぶ範囲
抵当権の効力が及ぶ範囲
・競売にかけられるもの
・物上代位できるもの
◇競売と物上代位の違い
・競売:債権の代わりに目的物を競売にかける
・物上代位:目的物の代わりに債権を第三者から回収
競売にかけられるもの
競売にかけられる
・付加一体物
・従物
・従たる権利
競売にかけられない
・果実(債務不履行になっていないなら)
◇付加一体物
・土地の樹木
・建物の増築分
◇従物
・建物に併設された物置
・土地の上にある庭石、石灯篭
※ただし、抵当権設定時に存在したものに限る
◇従たる権利
・建物の借地権(建物の所有者が土地の所有者と別の場合)
◇果実
果実=収益
被担保債権が債務不履行になっていないなら、抵当権の効力は及ばない(抵当権設定者には収益を得る権利がある)
ただし、被担保債権が債務不履行になった場合、抵当権の効力は及ぶ
債務不履行になっていないなら
・リンゴ:抵当権設定者のもの
・賃料:抵当権設定者のもの
債務不履行になった後
・リンゴ:競売にかけられると思われる
・賃料:物上代位できる
抵当権設定者が債務不履行になっても、目的物を競売にかけず、賃料を稼がせ続け、その賃料をいただいた方が抵当権者(銀行)にとってオイシイ場合があるということ
物上代位(ぶつじょうだいい)
抵当権の目的物が金銭に代わった場合、抵当権者はその金銭に抵当権の効力を及ぼせる
物上代位できる
・売買代金
・賃料(債務不履行になった場合のみ)
・保険金
物上代位できない
・賃料(債務不履行になっていないなら)
・転借料
◇売買代金
・抵当権設定者(債務者):1000万円借りるため土地に抵当権を設定
・抵当権者(銀行):抵当権設定者に1000万円を融資
↓
・抵当権設定者(債務者):土地を3000万円で売却する契約
・第三取得者:土地を3000万円で購入する契約
↓
・第三取得者:3000万円を用意
・抵当権者(銀行):第三取得者が用意した3000万円から1000万円を回収
・抵当権設定者(債務者):残りの2000万円を受け取る
◇賃料
・抵当権設定者(債務者):1000万円借りるため土地に抵当権を設定
・抵当権者(銀行):抵当権設定者に1000万円を融資
↓
・抵当権設定者(債務者):土地を貸す
・第三者:土地を借りる
↓
・抵当権設定者(債務者):債務不履行
↓
・第三者:賃料を用意
・抵当権者(銀行):第三者が用意した賃料から1000万円を回収
・抵当権設定者(債務者):残りを受け取る
◇保険金
・抵当権設定者(債務者):1000万円借りるため建物に抵当権を設定
・抵当権者(銀行):抵当権設定者に1000万円を融資
↓
建物が全焼
↓
・保険会社:保険金を用意
・抵当権者(銀行):保険会社が用意した保険金から1000万円を回収
・抵当権設定者(債務者):残りの保険金を受け取る
◇対象は目的物のみであることに注意
目的物が金銭に代わった場合のみなので、目的物でないものが金銭に変わっても物上代位できない
たとえば、土地に抵当権を設定した場合、建物が全焼しても、保険金から物上代位はできない
◇物上代位の要件
第三者が抵当権設定者に払い渡す前に、差し押さえなければならない
◇先後関係
抵当権者(銀行)が複数いる場合、物上代位の優先権は、抵当権登記の順序による
利息
抵当権者は利息分も得られる?
↓
後順位の抵当権者など他に利害関係人がいる場合、抵当権者が抵当権実行時に弁済を受けられる金額には、満期となった最後の2年分の利息しか含めることができない
※利息:抵当権設定者(債務者)が抵当権者(銀行)に払わなければならなかった利息のこと
抵当権侵害
目的物を第三者が破壊や不法占拠したとき、抵当権者は、妨害排除請求や、目的物明け渡し請求をできる
抵当権の実行
「抵当権の実行」とは
抵当権者(銀行)が目的物を裁判で競売にかけて債権を回収すること
法定地上権とは
抵当権実行により土地と建物の所有者が別々になった場合、建物の所有者に地上権を与える
法定地上権の成立要件
・抵当権設定時に建物があること★
※抵当権設定時に建物があれば、その後滅失して再築してもよい
・抵当権設定時に土地と建物の所有者が同一であること★
※登記名義が異なっていても、実質的に同一であればよい
・土地と建物の一方または双方に抵当権が設定されたこと
・抵当権実行により土地と建物の所有者が別々になること
※抵当権実行前に所有者が別々になっててもいい。別々→別々は可ということ
◇試験対策
出題文「競落人は建物所有者に土地の明渡しを求めることができない」→法定地上権が成立という意味
一括競売
更地に抵当権を設定した後、建物が築造された場合、抵当権者は土地だけでなく建物も一括して競売にかけることができる
↓
ただし、抵当権者が弁済を受けられるのは、土地の落札価格からのみ
賃借権の対抗
・抵当権設定の前から賃借していれば、賃借人は賃借権を抵当権者・競落人に対抗できる
・抵当権設定の後に賃借したら、賃借人は賃借権を抵当権者・競落人に対抗できない
→建物なら、6ヵ月、建物の明け渡しを猶予される
抵当権の順位の変化
抵当権の配当額とは
抵当権が実行されたときに、抵当権者(銀行)が受け取れる額
抵当権の処分
抵当権者(銀行)は
・抵当権の順位の変更
・抵当権の順位の譲渡
・抵当権の順位の放棄
を行うことができる
これによって、各抵当権者の配当額が変化する
配当予定額とは
変化前に持っていた債権の持分
配当額の変化
順位の変更
・2者間で順位を入れ替える
・他の抵当権者にマイナス影響がある場合、承諾が必要
順位の譲渡
・2者の配当予定額の合計を、入れ替えた順に配当
順位の放棄
・あくまで2者間でやる
・順位の放棄であり、配当を得る権利は維持される
・考え方としては、2者が同順位になるということ
・2者で、配当予定額の合計を、2者の債権額の割合で分け合う
◇整理
いずれも、あくまで2者間
変更:順位入れ換え
譲渡:合計額で順位入れ替え
放棄:合計額で割合
無担保債権者への抵当権の譲渡・放棄
無担保債権者は最後列(抵当権者の後ろ)に並ぶ
無担保債権者への「抵当権の譲渡」は、順位の譲渡と同様に考える
無担保債権者への「抵当権の放棄」は、順位の放棄と同様に考える
解法
1.それぞれの配当予定額を算出
2.2者の配当予定額の合計を算出
3
・譲渡:合計から並び替えた順にゲット
・放棄:合計を債権額の割合で分け合う
根抵当権
なぜ根抵当権があるのか?
銀行が反復的に融資する場合、何度も抵当権の設定と抹消を繰り返していたら、銀行も抵当権設定者もお互いに面倒だから
(毎回登記して、登録免許税も毎回かかってしまう)
↓
上限を設定して、その範囲ならいくらでも貸せるようになれば、設定は1回で済むのでお互いに楽
根抵当権とは
極度額(上限)を決めて、その範囲なら銀行がいくらでも融資する(被担保債権・債務を発生させる)仕組み
根抵当権の特徴
・被担保債権が不特定、一定の範囲
・極度額が設定される
付従性なし
・ひとつの被担保債権が消滅しても(返済しても)、根抵当権(全体)は消滅しない
・ひとつの被担保債権を譲渡しても、根抵当権(全体)を譲渡したことにはならない
・極度額の変更:後順位の抵当権者など、利害関係人全員の承諾が必要
・被担保債権の範囲(種類)の変更:利害関係人の承諾は不要
・根抵当権の順位は譲渡できない
利息
後順位の抵当権者など他に利害関係人がいる場合でも、弁済を受けられる金額に、2年分以上の利息を含めることができる
(普通の抵当権と異なる)
抵当権と根抵当権の違い
抵当権:いくら貸す
根抵当権:いくらまで貸す
抵当権:付従性あり
根抵当権:付従性なし
後順位の抵当権者がいる場合
抵当権:利息は最後の2年分
根抵当権:制限なし
順位の譲渡
抵当権:できる
根抵当権:できない
元本確定とは
根抵当権において、銀行が融資した額の総額が確定すること
元本確定の時期
・期日を決めていれば、その期日
・期日を決めていなければ、3年経過してから根抵当権設定者が請求したとき
元本確定後
元本確定したら、確定した額で普通の抵当権になる